スイス国民投票、最低賃金法制を否決

5月18日の国民投票で、大方の予想通り、時給22フラン(月給換算で約4,000フラン)の最低賃金をスイス全国で法定化しようという提案が否決されま した。反対票はスイス全国で76.3%にも上り、もっとも反対の少なかったBasel-Stadtでもその比率は62%を超え、すべての州で反対が賛成を 上回る結果となりました。

経済的にも安定し、働く人々の技能・職能が高いことに相応して給与水準も高いといわれるスイスですが、全国 で33万人、働く人のおよそ9%がこれを下回る給与で働いているのだそうです。貧困の増加や経済格差の拡大を防ぐため、また賃金ダンピングを 阻止するために必要な制度、と提案者は位置づけています。しかし、スイス国民はこういった施策よりも、経済は自由な枠組みの中で自らうまくまわっていく(べきだ/はずだ)という考えを選びました。

それはここ数年 で言うと、2012年3月の6週間の有給休暇を求める国民投票、2013年11月 の給与格差の制限を求める国民投票において、どちらも反対多数であったことにも現れており、スイス人気質を考える上で、重要なポイントといえましょう。

最低賃金を底上げするということは、コストが上がることであり、物価が上がることである。物価が上昇すれば消費を控える動きが出て、経済活動は停滞してしま うかもしれない。また、コスト上昇は企業にとっては、価格という点で国際競争力の低下につながりかねない。すると、それができる企業はコストの高いスイス の労働市場よりもむしろ外国で人材を調達するようになり、スイスには失業者が多くなってしまう・・・等 等。

ここから浮かび上がるのは、人々は例えば「労働者」という一面だけを持つのではなく、同時に消費者でもあり、またそれらを通して経営に関与する者でもある というバランス感覚です。さらには、労働も消費も企業経営もすべてつながっており、私たちの行動がすべてに影響を与えているのだ、という強い自意識と読み 取ることもできます。

税制や職業教育制度など、経済全般や労働市場がうまくまわっているスイスの基盤として語られるものは多いですが、この意識もまた非常に重要な要素ではない かと思っています。

 

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