スイスの女性と職業

ドイツ連立内閣が、2016年からおよそ100社の上場企業の監査役会の女性比率を30%以上とすることでまとまった、とのニュースが大きく取り上げられてわずか2、3日後の11月28日、今度はスイスの連邦政府が、役員の女性比率を30%以上とすることを含む株式法の改正を諮問したことが、若干の驚きとともにを伝えられました。一定の女性比率を定めることは議論されていたものの、経済界からの反対などから実現に至らないのではという予想が強かったからだと思われます。また、スイスの、企業の自主性を重んじる風土からみても、政府がここまで介入する必要はないという論調を代表した、非難の混じった驚きとも読み取れます。

女性の比率を一定以上にするいわゆるクォータ制は、女性の社会進出に肯定的な場合であっても賛否両論があります。推進する側は、この世の半分は女性だからという単純な理論だけでなく、ここ数十年の女性の社会進出のためのさまざまな取り組みを振り返って見るに、これらがあまり功を奏しておらず、入り口だけではなく出口に近い部分に大きな変化を人為的に起こす必要がある、と感じている人々のようです。その目標を達成するために、企業は女性をこれまで以上に重要な戦力とみなし、社内教育や待遇の改善を図り、社会全体としても優秀な女性の育成と支援のために、教育や家族支援対策などに力を注ぐようになるでしょう。また、そのような女性が増えることで、次世代の女性にも職業選択のお手本となるでしょう。

他方、批判する側の背景には、上記のような、企業の自主性を損ねるといった市場経済の原則論のほかに、例えば、以下のようなものがしばしばあげられます。

  • 優秀な男性より、優秀でない女性が昇進や採用等の機会を得ることになり、男性差別につながる
  • 能力的に十分ではない人材が枠を満たすためだけに昇進・採用の機会を得ることになり、企業の運営にとって問題。また、そのような女性が増えることは決して女性全体の経済界での地位向上にはつながらない
  • クォータ制を導入しても企業は優秀な女性役員を国外から調達して枠を満たすことができるかもしれない。それでは、クォータ制を導入することにより期待される国内での教育・社会制度の改革や、企業内の女性の位置づけの改善にはつながらない

そんな折、スイスでは教育においては平等あるいはそれ以上の位置づけを得た女性(女の子)達が、職業生活では結局伝統的な職業選択にとどまっているなど、得たものを生かしていないとする調査も発表されています。男性優位の職業や企業のトップへと進む道は彼女たちには魅力的ではないのでしょうか?それとも現実的ではないのでしょうか?

優秀な若い女性たちが、販売や美容などこれまでも女性の多い職業を選ぶ傾向にあることや、子育て期には仕事を辞めたり、パートタイムの仕事を選ぶ傾向にあることは、この調査も指摘するように、メディアの中の女性像や企業の販売戦略に影響を受けている部分も大きいでしょう。しかし、賢い若い女性たちが、彼女たちの欲しいものを得る手段として、現状況下でできる最大限の賢い選択、戦略なのであろう、という側面も忘れてはならないと思います。彼女たちの戦略が成功につながることを祈ると同時に、どのような「現状」が彼女たちの目標と戦略に大きな影響を与えているのか見極める必要があります。

 

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